テレビ連続ドラマ
『台湾水利の先駆者 八田與一と外代樹夫妻』18
【第十七回】
1、昼・屋外
時:大正十二年年末のある日の午前
場所:林夫人の家の門前、菜園
登場人物:林夫人(満妹)、郵便配達員、林友吉、郭水生、阿操、林信義、米雅、陳来成ほか数名の孤児院の子どもたち
△郵便配達員が自転車で郵便を配達に来て、林家の門前で呼びかける。
「林信義さん、書留です。印鑑をご用意ください。」
満 妹:「はい!今行きます。」
△居間にいた満妹は、引き出しから息子の印鑑を取り出し、玄関へ向かう。満妹は印鑑を郵便配達員に渡して受領印を押し、郵便配達員は手紙を彼女に手渡す。満妹は宛名を見ると、烏山頭から送られてきたものだった。
満 妹:(台湾語)「あなた、この手紙を菜園まで持って行って、うちの息子に渡してきて。」
友 吉:(台湾語)「昼にあいつが帰ってきて昼飯を食べる時に見ればいいじゃないか。」
満 妹:(台湾語)「何をごちゃごちゃ言ってるの?今届けてって言ってるんだから、すぐ行って!」
△菜園では、水生と信義が畑を耕し草取りをしている。来成と数名の孤児院の子どもたちはバケツを持って畝に水をやり、阿操と米雅は野菜や果物を収穫して整理している。林友吉が菜園にやって来て、息子の信義に手を振る。
友 吉:(台湾語)「お前宛ての書留だ。」
信 義:(台湾語)「烏山頭から来た手紙だね、お父さん。」
信 義:(台湾語)(喜んで)「八田様が僕を職場に復帰させてくれるんだ。米雅、米雅!」
△米雅が歩み寄って来る。
信 義:(台湾語)「八田様が俺を烏山頭へ戻って仕事に復帰させてくれるんだよ、嫁さん。」
米 雅:(台湾語)「私たちはいつ出発するの?」
信 義:(台湾語)「もちろん早ければ早いほどいい。明日には戻ろう。」
2、昼・屋外
時:大正十三年一月初旬のある日の正午
場所:烏山頭出張所前
登場人物:八田與一、阿部貞壽、藏成信一、林信義、復職手続きを待つ職員たち
△出張所前では、作業員たちが復職通知書を持って列に並び、順番に復職手続きをしている。傍らでは長い連続爆竹が盛大に鳴り響いている。
信 一:「信義、また君に会えて本当にうれしいよ。」
信 義:「僕もだよ!昨夜は興奮して一晩中眠れなかったんだ!」
△外代樹のモノローグ
大正十二年の年末、総督府は烏山頭工事への予算支給を再開した。工事関係者たちは次々と烏山頭へ戻り、烏山頭に集まった工事関係者とその家族は二千人を超えていた。
阿 部:「中島技師、お帰りなさい!」
力 男:「昨日の午後に通知を受け取ると、その日の夜にはもう荷造りを済ませましたよ。」
阿 部:「ずいぶん手際がいいですね!」
力 男:「ここは人情味があって、福利厚生もいいですからね。」
3、昼・屋内
時:大正十三年十二月下旬のある日の午前
場所:烏山頭出張所事務室
登場人物:八田與一、阿部貞壽、藏成信一、住吉秀松(住吉組)、鹿島精一(鹿島組)、大倉喜八郎(大倉組)
△烏山頭出張所の事務室で、八田與一が工事請負業者を招集する。
與 一:「皆さん、ご承知のとおり、以前の大圳組合への工事補助金は関東大震災の影響で総督府によって削減され、その結果、工事は遅延しました。本日皆さんにお集まりいただいたのは、今後は三交代制を採用し、昼夜を問わず工事を進めることをお伝えするためです。しかし、そのような体制になっても、私は皆さんに工事現場の安全を徹底し、重大事故を二度と起こさないよう強くお願いいたします。」
住 吉:「所長、三交代制を採用するとなると、人員をさらに二倍増やさなければならず、人件費も大幅に増えてしまいます。」
與 一:「住吉社長、工期が長引きすぎれば、かえって総工費の管理が難しくなります。私は土木局の山形局長に工期延長を要請するつもりです。現在の進捗状況から判断すると、完成は三年から四年ほど遅れる可能性があります。しかも、これは三交代制を前提として試算した結果です。」
喜八郎:「所長の見通しには十分な根拠があります。当組は担当工事が最も多く、現時点ではダム堤体工事すらまだ始まっていません。当初予定された六年間の工期内に完成するとは、私も思えません。」
精 一:「私ども鹿島組は、八田所長の三交代制施工の方針に全面的に協力いたします。」
與 一:「住吉社長、機械・電気設備工事については二交代制でも構いません。ただし、土木工事については三交代制で施工するようご協力をお願いします。」
住 吉:「はい、所長。」
4、夜・屋外
時:大正十三年一月初旬のある日の夜
場所:烏山頭宿舎地区・文康センター横の広場
登場人物:八田與一、外代樹、正子(六歳)、晃夫(四歳)、綾子(三歳)、阿部貞壽、中川曉月、藏成信一、秀子、曉月、大志(七歳)、林信義、米雅、林翰文(三歳)
△烏山頭宿舎地区の文康センター横の広場では、野外映画が上映されている。
信 義:「所長、皆さんも映画をご覧になるんですか?」
與 一:「そうですよ。」
信 義:「ここの野外映画は、西門町の映画館で観るよりも、ずっと気楽な感じがしますね。」
與 一:「楽しければ、芝生に寝転がって観てもいいですよ。」
信 一:「映画館みたいに、伸びをしたりあくびをしたりするだけで隣の人に迷惑をかけるんじゃないかと気を遣う必要もありませんからね。」
外代樹:「ご覧なさい!子どもたちはみんな一緒に遊んでいますよ。」
信 一:「阿部さんと中川さんの吉報も近そうですね!」
△阿部貞壽と中川曉月は芝生に座っており、皆が自分たちを見つめていることにはまったく気づいていない。
△外代樹のモノローグ
工事関係者が増えたことに伴い、與一は労働環境の改善に力を尽くした。そのため、従来から設けられていた学校、病院、購買市場に加え、弓道場、プール、運動場、さらに卓球、囲碁、将棋、麻雀などの棋芸クラブをはじめとする数多くのレジャー・娯楽施設も新たに整備した。それだけではなく、與一はわざわざ台北から巡回映画上映隊を招き、毎月、職員やその家族のために映画を上映していた。
5、昼・屋内
時:大正十三年五月二十七日午前
場所:総督府土木局長室
登場人物:山形要助局長、八田與一、白木原民次
△総督府土木局長室で、技師・白木原民次が工事進捗報告書を取り出す。
與 一:「工事の難易度が当初の予想を上回ったことに加え、昨年は補助金が削減されたため、現在の工事進捗率は二〇%にも達しておらず、本来予定していた四五%の進捗とは大きな開きがあります。すでに三交代制による昼夜兼行の施工に切り替えましたが、工事の完成は三年から四年ほど遅れる見込みです。」
山 形:「そうですか。」
△山形はしばらく報告書に目を通す。
山 形:「私が懸念しているのは、工期の遅延だけではありません。予算の問題もあります。あなたの試算では、総工事費はどの程度増額される見込みですか。」
與 一:「当初承認された四千万円を基準にすると、およそ四割ほど追加が必要になると思われます。」
山 形:「つまり、私に賀来長官と内田総督を説得しろということですね。」
與 一:「はい。」
山 形:「八田所長、それでは四年間の工期延長と四割の予算追加が認められれば、この工事は必ず無事に完成すると保証できますか。」
與 一:「はい。」
山 形:(苦笑しながら)「分かりました。どうやら私にもほかに選択肢はないようですね。もうこれ以上、私を困らせないでくださいよ。」
△外代樹のモノローグ
その年の六月、総督府は嘉南大圳工事の工期を四年間延長すると発表した。與一は自らのチームを率い、烏山頭の水利事業に全力で取り組んでいった。
6、夜・屋内
時:大正十三年五月下旬のある夜
場所:烏山頭宿舎地区・八田與一宿舎の居間
登場人物:八田與一、外代樹(妊娠七か月)、正子、晃夫、綾子
△八田與一の宿舎の居間では、正子が宿題をしており、晃夫と綾子は積み木で遊んでいる。外代樹は服を縫っている。
外代樹:「あなたは毎日朝早く出て夜遅く帰ってきて、勤務時間がとても長いけれど、体は大丈夫なの?」
與 一:「仕方ありません。工事の進捗が大幅に遅れていますから。でも、自分の体には気をつけますよ、あなた。」
外代樹:「あなたの責任感が強いことは分かっています。でも、もっと幹部たちに権限を委ねて、仕事を分担させるべきです。子どもたちの成長に寄り添うことも、父親としてのあなたの責任だとは思いませんか。」
與 一:「分かりました。少し調整してみます。」
外代樹:「何でもかんでも一人で抱え込む必要はありません。あなたには三つの頭も六本の腕もあるわけではないでしょう。もっと幹部たちを信頼して、彼らにも判断を任せるようにしてください。」
與 一:「君の言いたいことは、よく分かりました。」
外代樹:「鶏のスープを作っておいたの。温めて持ってきますね。」
與 一:(感動して)「あなた、本当にありがとう。」
外代樹:「あなたの体を大切にすることは、妻である私の務めです。」
7、夜・屋外
時:大正十三年六月初旬のある日の午後
場所:烏山頭宿舎地区近くの農園
登場人物:外代樹(妊娠七か月)、正子、晃夫、綾子、秀子、大志、米雅、王美足、張麗娥、簡妻・呉阿玉、簡大春、簡喜妹
△烏山頭宿舎地区近くの農園で、外代樹、秀子、米雅がヘチマとかんぴょうウリを収穫している。
米 雅:「お義姉さん、お腹が大きくて大変でしょう。私が採ってあげます。」
外代樹:「米雅、気を遣わなくていいのよ。もう四人目だから、すっかり慣れているわ。」
米 雅:「主人から、お義姉さんを見習うように言われているんです。正直言うと、私もじっとしていられない性分なんですよ。」
外代樹:「じっとしていられないのは良いことよ。『働くことは健康につながる』という話を聞いたことがあるでしょう。」
米 雅:「集落のお年寄りの女性たちはよく言っています。子どもを産んだ女性は、よく働かないと体形が崩れやすいって。」
秀 子:「米雅、つまりあなたは体形が崩れるのを心配しているのね。」
米 雅:「そうなんです。秀子さんは本当にうらやましいです。どれだけ食べても太らないみたいですもの。」
秀 子:「そんなことないわ。普段から野菜や果物をたくさん食べて、それに運動を続けているから、体形を維持できているだけよ。」
王美足:「あなたたち三人は本当にいいわね。私はすっかり寸胴体形になってしまったわ。」
米 雅:「それだけ食べる楽しみがあるってことですよ、王さん。」
秀 子:「お姉さん、この頃は主人も時間どおりに帰宅できるようになりました。少し前みたいに朝早く出て夜遅く帰る毎日ではなくなりました。」
外代樹:(微笑みながら)「そうなの。少し前に私が與一を叱って、あまり無理をして忙しくなりすぎないように言ったのよ。」
秀 子:「そういうことだったんですか。前に信一にどうして毎日深夜まで残業しているのか聞いたら、『所長がいつも遅くまで働いているから、自分も阿部さんも白木原さんも湯本さんも、誰一人として先に帰るわけにはいかないんです』と言っていました。」
外代樹:「私は與一に、仕事を早く切り上げて子どもたちと過ごす時間を作るようお願いしたの。」
秀 子:「義兄さんは、やっぱりお姉さんの言うことをよく聞いてくれるんですね。」
8、昼・屋外
時:大正十四年五月二十六日正午
場所:桃園大圳竣工・供用開始式典会場
登場人物:桃園大圳総監督・狩野三郎、山形要助局長、技師・八田與一、阿部貞壽、白木原民次、藏成信一、小原一策、川山丈澄、新竹州知事・佐藤勸
△大正十四年五月二十六日、「桃園大圳」竣工・供用開始式典会場。
山 形:「『桃園大圳』は、大正四年に総督府が建設計画を策定し、本局技師の狩野三郎および八田與一が調査・設計を担当しました。翌年に着工し、標高三百六十メートル以下の台地に広がる二万二千甲の農地を灌漑する計画でした。九年間の工期を経て、本日ついに大圳は完成いたしました。これまでため池の水に頼るしかなかった桃園台地にとって、その恩恵は計り知れません。私は総督府土木局を代表し、総監督の狩野技師、大圳水路の設計者である八田技師、そして両氏が率いた技師団と数多くの工事関係者の皆様の献身的なご努力に、心から深い敬意を表します。皆様は台湾というこの新しい国土の発展のために、多大なる貢献をなされました。……」
△来賓席では、狩野三郎と八田與一が並んで座っている。
狩 野:「八田所長、烏山頭工事は全面的に再開してから、かなり厳しい工程になっているでしょう。」
與 一:「ええ、総監督。私は請負業者に三交代制で昼夜兼行の施工を命じています。」
狩 野:「あの突然の東京の大地震さえなければ、私が監督した桃園大圳は半年早く完成していたでしょう。」
與 一:「あのような天災は、誰にも予測できませんでしたからね。」
狩 野:「製糖会社の荒井や藤山たちは、この数年間、もう工事の邪魔はしていませんか。」
與 一:「いいえ。私が当時の台南庁へ出向き、地主の皆さんと直接話し合って理解を得た後は、製糖会社も二度と妨害できなくなりました。」
狩 野:「それはよかった。製糖会社の連中は、自分たちの事業のことしか考えておらず、農民の暮らしなど気にも留めません。実業家と呼ばれていますが、むしろ利己的な商人と言ったほうがふさわしいでしょう。」
佐藤 勸:「本日はご多忙の中、桃園大圳竣工・供用開始式典にご臨席いただき、誠にありがとうございます。私は新竹州知事の佐藤でございます。在任中に桃園大圳の完成と供用開始の日を迎えることができ、大変光栄に存じます。……」
9、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夕暮れ
場所:烏山頭宿舎地区のある木陰
登場人物:労働者数名、日本人巡査・松本大雄、台湾人巡査補・游立達、所長・鬼塚一郎
△数人の労働者が大きな木の下で賭博をしており、サイコロを振って騒いでいる。その騒音が巡査を引き寄せる。
松 本:「お前たち、ここで公然と賭博をしているな、逮捕する!」
労働者甲:「ただちょっと小さく賭けているだけで、騒ぎも起こしていないし、治安を乱してもいません!」
労働者乙:「そうだ!所長は賭博を禁止すると言っていない。ただ喧嘩や騒ぎを起こすなと注意しただけだ。」
松 本:「でたらめを言うな!お前たちの八田所長が賭博を許すはずがない!」
労働者丙:「本当です!こんなこと、私たちが勝手に言えるはずがありません!」
松 本:(警棒を振りながら)「お前たち、まず派出所に連れて行く。事実かどうかは私が調べる。」
労働者甲:「わかったよ、わかったよ!」
△その労働者たちは、日本人巡査・松本大雄と台湾人巡査補・游立達に連行される。
10、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夕暮れ
場所:烏山頭派出所
登場人物:労働者数名、日本人巡査・松本大雄、台湾人巡査補・游立達、所長・鬼塚一郎、八田與一、藏成信一、林信義
△八田與一、藏成信一、林信義が一緒に派出所へ入り、所長が自ら応対する。
與 一:「鬼塚所長、私の数人の労働者が、そちらの部下に連れて来られたと聞きました。」
鬼 塚:「八田長官、実は明日の朝一番で出張所へご挨拶に伺おうと思っていたところです。あの労働者たちは公然と賭博をしており、私の部下は〈違警条例〉違反として現行犯逮捕し、ここへ連行しました。」
與 一:「違警条例の現行犯?そこまで重いですか?彼らは治安を乱したのですか?それとも喧嘩でもしたのですか?」
松 本:「報告いたします。彼らは公然と賭博を行っており、それだけで〈違警条例〉違反に該当します。」
與 一:「仕事終わりの飲酒や賭博は、私が許可していることです。それなら、私も一緒に逮捕しますか?」
松 本:「恐れながら、そのようなことはできません!」
與 一:「鬼塚所長、私の部下が喧嘩や窃盗・強盗をした場合を除き、むやみに逮捕したり拘束したりしないでください。それでは工事の進捗に影響します。」
鬼 塚:「は、はい、所長!」
信 一:「今後もし貴所で逮捕・拘束する人員が出た場合は、必ず出張所へ事前に知らせてください。」
鬼 塚:「はい、藏成技監!」
信 一:「この数人の労働者は、こちらで引き取ります。」
鬼 塚:「はい!松本、釈放しろ。」
△八田與一はその労働者たちを連れて出て行く。
松 本:(不満げに)「所長、なんだか俺たちは情けないですね。まるで工事現場の警備員みたいです。」
鬼 塚:「所下にいる以上、八田所長はここ烏山頭の大家長だ。松本、前向きに考えよう。むしろ楽でいいじゃないか。」
11、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夕暮れ
場所:烏山頭職員文康センター・棋室およびビリヤード室
登場人物:八田與一、藏成信一、阿部貞壽、林信義、小原一策、白木原民次、職員数名
△職員文康センターの棋室では、八田與一、阿部貞壽、藏成信一、小原一策が対局し、囲碁を打っている。林信義と白木原民次、数名の職員が観戦している。
林信義:「黒石の攻めがかなり鋭いですね。」
民 次:「よく分かるな。白はもう防ぎきれそうにない。」
阿 部:「所長、こんなに碁が強いとは思いませんでした!」
與 一:「知らないのか?攻撃こそ最大の防御だ。気をつけろよ。」
△ビリヤード室では、ヴァリス・ベリンと宮田真人が対戦しており、ベリンが次々と指定球をポケットに入れていく。
ベ リン:「失礼、いただきました。」
宮 田:「まさか今回ここまでの強者に当たるとは。」
12、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夕暮れ
場所:烏山頭宿舎地区・八田與一宿舎の台所および居間
登場人物:外代樹、秀子、米雅、大志、正子、晃夫、與一、信一、林信義
△八田與一の宿舎の台所では、三人の主婦が餃子を包んでいる。子どもたちは居間で積み木遊びをしている。
米 雅:「餃子は北方漢民族の日常の主食で、日本人にとっての寿司のようなものです。」
秀 子:「でもあなたは漢民族ではないのに、どうしてこれを作れるの?」
米 雅:「阿操の夫・郭水生から教わったのよ。包子も餃子も彼の得意料理なの。」
外代樹:「そうね。西門町に住んでいた頃、林夫人や水生と一緒に餃子を包んで、孤児院の子どもたちに食べさせていたのを思い出すわ。」
秀 子:「そうですね。子どもたちは今どうしているのでしょう。」
米 雅:「会いたければ、会いに行けばいいのでは?」
外代樹:「三人の子どもを連れていて、しかもお腹にもう一人いるのよ。どこへ行くのも大変なの。」
米 雅:「子どもたちも同じように、あの二人の旦那さんを恋しがっていますよ。」
△與一、信一、林信義が帰って来る。
外代樹:「お帰りなさい。今夜の主食は餃子と酸辣湯よ。」
與 一:「おお、それはいい!酸辣湯は大好きだ。」
外代樹:「じゃあたくさん飲んでね。今回は大鍋でたっぷり作ったのよ。」
信 一:「西門町を離れてから、餃子と酸辣湯を食べるのは久しぶりだな。」
信 義:「この二つは、昔よく郭水生の包子店で食べていました。」
秀 子:「話してばかりいないで、箸と器を持ってきて。食事の準備よ。」
△三人の男たちが箸と器を運び、スープ鍋を持ってくる。
與 一:(近づいて匂いを嗅ぐ)「いい香りだな。よだれが出そうだ。」
外代樹:「與一、スープに落とさないでね。」
△その場の全員が笑う。
13、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夕暮れ
場所:烏山頭文康センター横の新楽園芸妓館
登場人物:台湾人監督・邱明亮、労働者・張阿順ほか数名、日本人技師・小田省三、監督・佐々木隆太ほか数名、女将・中森美雅、芸妓・梨花、麗子ほか数名、従業員・阿敏
△文康センター横の新楽園芸妓館では、台湾人労働者と日本人職員が木の扉を隔てて、それぞれ酒を飲み歌い、楽しんでいる。従業員の阿敏が麗子に隣の席へ移るよう伝えたことで佐々木らが不満を示し、麗子の手を放さず、双方が二つの部屋の間で押し合いになっている。
佐々木:「私の許可がなければ、麗子はここを離れてはならない。」
阿 敏:「佐々木様、どうかお手柔らかに、私たち下働きを困らせないでください。」
梨 花:「お客様、そんなことをなさらないでください。後で麗子はまた戻ってきますから!」
佐々木:「交渉の余地はない!」
邱明亮:「佐々木、ずいぶん横暴じゃないか?」
佐々木:「私はこういう人間だ。お前たちのような賤民め!」
張阿順:「佐々木、どうしてそんな言い方をするんだ?」
佐々木:「間違っていないだろう。お前たち台湾人は賤民だ。だからこそ我々大日本に統治されているのだ!」
△双方の口論は次第に激しくなり、ついには取っ組み合いの乱闘となり、酒器が床に散乱する。
小 田:「佐々木、やめろ、やめるんだ!」
美 雅:「やめてください、やめてください!阿敏、派出所に電話を!」
阿 敏:「はい!女将さん!」
14、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夜
場所:烏山頭派出所、出張所
登場人物:日本人巡査・松本大雄、台湾人巡査補・游立達、所長・鬼塚一郎、八田與一、簡吉、台湾人監督・邱明亮、労働者・張阿順ほか数名、日本人技師・小田省三、監督・佐々木隆太ほか数名
△烏山頭派出所では、喧嘩騒ぎを起こした両方の人間が留置場に入れられている。
松 本:「所長、出張所へ連絡しますか?前回のようにまた八田所長に叱られないように。」
鬼 塚:「電話しろ。」
△松本が受話器を取り上げ電話をかける。
松 本:「こちら派出所です。松本巡査です。八田長官をお願いします。」
簡 吉:「少々お待ちください、所長。派出所の松本巡査からです。」
△與一が受話器を取る。
與 一:「八田です。」
松 本:「あなたのところの者たちが新楽園芸妓館で乱闘騒ぎを起こし、通報を受けたため、こちらで連行しました。」
與 一:「何?二つの一団が乱闘したのか?」
松 本:「中には出張所の幹部もおります。長官、法に従い拘留いたしますか?」
與 一:「このろくでなしどもめ!松本、所長に伝えろ。法に従い拘留しろ。幹部は一週間追加で拘留だ。」
松 本:「はい、長官。」
△松本が受話器を置く。
鬼 塚:「八田所長は何と?」
△松本は與一の口調を真似る。
松 本:「このろくでなしどもめ!松本、所長に伝えろ。法に従い拘留しろ。幹部は一週間追加で拘留だ。」
鬼 塚:「では法に従って拘留だな。」
游立達:「驚いたな。八田長官はこんなに原則的な人だったとは。」
△留置場の中で小田省三と佐々木隆太が小声で話す。
小 田:「佐々木、君のせいで私は大変な目に遭ったぞ。」
佐々木:(頭を下げて)「小田技師、本当にすまない。巻き込むつもりはなかったんだ。」
15、夜・芝居
時:大正十四年七月某日の夜
場所:烏山頭出張所
登場人物:八田與一、阿部貞壽、簡吉、台湾人監督・邱明亮、小田省三、監督・佐々木隆太
△烏山頭出張所で、台湾人監督・邱明亮、小田省三、佐々木隆太の三人が與一の机の前で直立している。
阿 部:「小田、お前もやりすぎだぞ!酒を飲んで歌うだけならいいが、なんで乱闘まで起こすんだ?」
小 田:「冤罪です!阿部監造、私はその場で仲裁していただけです!」
與 一:「小田、その場で仲裁したと言うが、証人はいるのか?」
佐々木:「報告します。小田技師は確かに乱闘には加わっておりません。私が証言できます。」
與 一:「分かった。すでに拘留処分を受けている以上、小田についてはこれ以上追及しない。佐々木と邱明亮については、派出所の調書に基づき、佐々木は挑発行為が先であるため大過一回、再犯すれば解任とする。邱明亮は小過二回とする。この処分に異議はあるか?」
邱明亮:「長官、反省の機会をいただき感謝します。」
與 一:「では佐々木、お前はどうだ。」
佐々木:「長官、この教訓を必ず肝に銘じます。」
與 一:「以上だ。持ち場へ戻れ。」
△小田技師は阿部の横を通り過ぎる際、「OK」の手を軽く見せる。
小 田:(小声)「危なかったな……」
16、昼・芝居
時:大正十四年八月某日の夕暮れ
場所:烏山頭宿舎地区・八田與一宿舎の庭
登場人物:與一、外代樹、正子、晃夫、綾子、簡吉、簡大春、信一、秀子、大志、阿部貞壽、信義、米雅および子どもたち
△八田與一宿舎の庭で、簡吉と息子・大春が布袋戯を演じている。
大 春:「皆さんご覧ください!私は誰か分かりますか?私はかつて天宮を騒がせた斉天大聖・孫悟空です!花果山・水簾洞の美猴王として知られた私が、今日はこの地にやって来ました……」
外代樹:「大春は本当に多才ね。独楽回しもできるし、布袋戯までできるなんて。」
秀 子:「そうね。うちの息子・大志よりずっと活発だわ。」
外代樹:「大志はおとなしい性格で読書が好きだから、将来は大学の先生になるかもしれないわね。」
簡 吉:「私は猪八戒だ!この世で一番幸せなのは、食べて寝ることだ……」
晃 夫:「父さん、孫悟空の人形が欲しい!」
與 一:「よし、時間ができたら人形を彫ってやろう。」
大 志:(秀子の袖を引きながら)「お母さん、どうしてあの人形は豚みたいな顔なの?」
秀 子:「あれは猪八戒の生まれ変わりだと言われているのよ。」
大 志:「あの豚の顔、阿部叔父さんに似てるね。」
△秀子は阿部を見て吹き出す。
秀 子:「確かに少し似ているわね。」
17、夜・芝居
時:大正十四年八月某日の夜
場所:烏山頭出張所事務室
登場人物:藏成信一、湯本政夫
△烏山頭出張所事務室では、当直表に湯本政夫の木札が掛かっている。
信 一:「政夫、今夜は君が当直だ。私は工事現場を回ってくる。後で軽食を持って来るよ。」
政 夫:「ありがとうございます、藏成長官。」
信 一:「恋人を作って、そろそろ家庭を持つ頃だろう。」
政 夫:(微笑んで)「そういうのは急げません。それに、仕事が忙しくて映画を見る時間もありません。」
信 一:「そんなはずはないだろう。所長は当直さえ回していれば、自由時間はあるはずだ。」
政 夫:「違うんです。仕事が終わった後、周金徳たちのキノコ小屋で手伝いをしているんです。」
信 一:「なるほど。それじゃ私は巡回に行ってくる。」
18、薄暮・芝居
時:大正十四年八月某日の夕暮れ
場所:烏山頭宿舎地区・八田與一宿舎寝室
登場人物:外代樹、與一
△夜が更けて静まり返り、熟睡している與一のいびきは穏やかである。外代樹は机の前に座り、與一から贈られた人形を手でこすりながら、窓の外の一輪の満月を見つめている。彼女の頭の中には、故郷金沢の兼六園で、雨の日に與一と約束を交わしたあの場面が浮かんでいる。
外代樹:(OS)「秋の金沢、兼六園の紅葉は、もう赤く色づき始めている頃だろうか?」
19、昼・芝居
時:大正十四年八月某日の昼間
場所:烏山頭出張所事務室
登場人物:八田與一、藏成信一、湯本政夫、阿部貞壽、白木原民次、小原一策、小田省三
△烏山頭出張所事務室では、技師たちが「烏山頭貯水池立体水工模型」を囲んで議論している。
民 次:「所長、あなたの自然越流堰の設計はとても独創的ですね。水位が一定の標高に達すると、自動的に越流してダム本体の安全を維持する仕組みです。」
與 一:「外国ではまだ見られない設計です。皆さんは信じないかもしれませんが、この着想は実は私の子どもたちの遊びから生まれたものです。」
小 田:「その発想はなかなか面白いですね。」
與 一:「ある雨の日のことです。宿舎の庭に小さな高まりがあり、そこに水が溜まっていました。息子の晃夫が小さな鍬を持ってきて、その水に出口を掘ると、水は少しずつ流れ出しました。」
阿 部:(笑いながら)「所長、本当に童心を失っていませんね。」
信 一:「所長の半水成施工法は、ダム本体の鉄筋コンクリート量を最小限に抑えるもので、非常に独創的な設計です。」
阿 部:「所長、ただ心配なのは、このような土堰堤が七級以上の強い地震に耐えられるかどうかです。」
與 一:「阿部技師、その点は心配いりません。土堰堤内部には大小の石が順序よく配置され、粘性土で密に固められています。強い地震が来ても堤体は一緒に揺れ、粘土がまるでゼリーのように震動を吸収するため、一般的なコンクリートダムのように硬直して破壊されることはありません。」
政 夫:「所長の説明と的確な比喩のおかげで、半水成施工法の土堰堤の特徴がよく理解できました。」
與 一:「このダム設計図は土木局に提出して審査を受ける予定です。局内の上層部から何か意見が出るかもしれませんね。」
20、午後・芝居
時:大正十四年八月某日の午後
場所:総督府土木局長室
登場人物:八田與一、山形要助
△土木局長室にて。
山 形:「あなたのダム設計図は、私と局の同僚たちで詳細に検討しました。同僚たちは、アメリカの水庫工事局に可行性の専門評価を依頼するべきだと提案しています。同局は専門家を派遣し、ダム予定地の現地調査を行い、あなたと詳細に協議する予定です。ただし、心配する必要はありません。私はあなたの設計に非常に自信を持っています。」
與 一:「局長、ありがとうございます。私の設計は実際の水工模型試験を経ており、烏山頭周辺にはいくつかの断層線が存在することを考慮して、耐震係数を構造設計の最重要要素としております。そのため、粘土と石を主体とする半水成施工法を採用することにしました。第一に鉄筋コンクリートの使用量を減らして材料費を節約し、第二に堤体の耐震性を高めるためです。」
山 形:「あなたには専門的な考えがある。しかしアメリカから来る専門家の評価や意見を聞くことも悪いことではありません。真金は火に耐えると言いますから、大丈夫です。」
與 一:「はい。」






